クリントン敗北はコンピュータアルゴリズム「Ada」の責任なのか?
アメリカ大統領選の結果についての論考が、メディアで出はじめています。クリントン陣営がラストベルトと呼ばれるアメリカ中西部地域を軽視したのが、多くの記事に見られる論調です。
では、なぜクリントン陣営はラストベルトを軽視したのか?それは、「Ada」と呼ばれるコンピュータアルゴリズムがラストベルトを重視しなかったから、という記事がありました。
Clinton’s data-driven campaign relied heavily on an algorithm named Ada. What didn’t she see? The Washington Post
日本語記事だと、上記のワシントンポストの記事を、GIGAZINEさんが紹介されていますね。
クリントン陣営が選挙運動のデータ分析に使っていた「Ada」アルゴリズムが敗北の原因か? GIGAZINE
これらの記事を読むと、IBMのワトソンのようなAIが、「次の演説はペンシルベニアで!」と指示をして、それにクリントン陣営が従っていたようなイメージを私は持ちました。実際のところは、どうなのでしょう?
ワシントンポストの元記事を読むと、Adaは19世紀の女性数学者であるエイダ・ラブレスに因んで名付けられたアルゴリズムと解釈できます。
ところがネットでエイダ・ラブレスに由来するテクノロジーについて出てくるのは、70年代に策定されたプログラミング言語”Ada”だけです。ワトソンのようなAIだったり、アルゴリズムを実装したデータ分析ツールは出てきません。このことは、GIGAZINEさんでも疑問に思われたようで、次のような記述があります。
クリントン陣営がAdaによって書かれたアルゴリズムを「Ada」と呼んでいるためか、The Washington PostとThe New Yorkerではクリントン陣営が使っているアルゴリズムを「Ada」として紹介しているので、ここではクリントン陣営が使っていたアルゴリズムを「Adaアルゴリズム」として、どのように活用されていたのかを説明します。
ここからは私の想像ですが、Adaはやはりプログラミング言語そのものであって、原文でアルゴリズムと呼んでいるものの実態は、Adaで作成されたプログラムによって構成された、選挙支援システムなのではないかと思います。そのシステムには、「重要な遊説地推薦機能」、「支持層に影響力を持つセレブ推薦機能」などがあって、世論調査の結果データなどをインプットすると、複数の候補を優先度をつけて返してくれるような物理的なシステムを、想像します。
ではなぜAda”アルゴリズム”がまちがっていた、という記事が出るのか?
選挙対策担当者からすれば、ラストベルトを軽視したという自分の責任を少しは軽くできます。そうした思惑に基づいた説明を、ワシントンポストの記者さんが聞いて、そのまま記事にまとめた…、なんてことはありませんかね?
どれほど優れたシステムが存在しても、正しい要件に基づいた正しいデータが、正しいロジックで処理されなければ意味がありません。今後AIが発達しても、おなじことが起こるでしょう。
そのとき責任を取るのは機械ではなく、要件・データ・ロジックを定義した人間が取るべきだと思います。今回の大統領選で言えば、やはり、ラストベルトを軽視したクリントン陣営の選挙対策担当者に責任があるでしょう。システムは選挙対策担当者の頭にあるロジックを、忠実に再現したシステムでしかないのでしょうから。